2010年12月6日月曜日

11/27(土)広瀬浩二郎さんの講演会

11/27(土)、国立民族学博物館の広瀬浩二郎さんに
万人のための“点字力”入門~「さわってみる」フィーリングワークの魅力~
と題してお話いただきました。

講演会の会場の様子

はじめに、
広瀬さんたちが2001年からされている「視覚障害者文化を育てる会(4しょく会)」の活動について。

4つの「しょく」・・・

食=誰にとっても共通して楽しい食。同じ「人」として一緒にできる・楽しむ所を共有する。

色=視覚障害者にとって縁遠いと思われ遠慮されがちな色の話題。でも色についての情報も大切で『見常者』の目を通したり支援機器を使うことで共有できる。少しの工夫で一緒にできる。

触=目を使わない『触常者』の得意分野。さわって楽しむワークショップや自然観察会などで『触常者』のオリジナリティを発揮。

職=自立した生活には「職」のことが大事。就労の問題を考える。

を軸に年数回、活動しているそうです。

この「4しょく会」のように「文化」として提示できるようになったのは
「生存権」が満たされた21世紀になってから。

その説明として、視覚障害者の大学進学の歴史を、
切り開いてきた先輩たちに敬意を表しながらお話くださいました。

戦前 盲・ろう学校卒業では高卒の資格がとれないので大学進学は無理。
戦後 盲・ろう学校の義務化で高卒資格=受験する資格取得が可能。
   でも、入試や入学してからの対応ができないとして「門前払い」多発。
1950・60年代
   門戸開放、機会は与えて欲しいとの働きかけ
70~80年 少しずつ大学進学者が増える。
   でも、授業での必要な配慮はなく、学生同士の助け合い
80年~ 門戸も広がり、点字受験もふえる。
   PCの登場(音声読上げ機能など日進月歩)、
   ボランティアによる支援体制等、学習・生活環境が整う。

視覚障害者を取り巻く環境で少しの改善しかみられないのは就職、
とのことでした。

お話しする広瀬さん


後半の話題は、さわってみる「さわる文化」について。

一番訴えたいのは、視覚障害者に対するイメージを少しでもかえること。

昔の小学校国語教科書にある、江戸時代の塙保己一(はなわ ほきいち)の話題。

その頃の視覚障害者の職業とされた按摩・鍼・音曲はものにできず、やむなく自分の得意の学問好き、聞いて覚える記憶力を生かして大学者になったこと。
夜の講義中にろうそくの火が消え、「文字が読めない」と困る生徒と対照的に問題なく講義を続け「目あきとは不便なものだ」と語ったという話。

自分にないものでなく持っているものを生かすことで別の事が「できる」、
また、
夜の講義のエピソードでは、場面や環境によっては便利と不便が逆転するなど、
物事をいろんな角度からみる大切さが伝わる教材だったそうです。

ウィキペディア
塙保己一(はなわ ほきいち)


視覚が使えない不自由な人、
ではなく、
視覚を使わない、目のかわりに別の方法を使う人

そんなイメージを広げるよう、「さわる文化」を切り口に
展覧会やワークショップを企画・実施されているそうです。
今年度中には保育園のこどもたち向けのワークショップがあり、
どのようにするか、どんな反応か?楽しみに計画しているところ、
とのお話でした。

特定の人に限られてしまう「視覚障害者文化」ではなく
誰にでも開かれて共有できる「さわる文化」を示すことで
さわって「学ぶ」「楽しむ」「驚く」を共有できる・・・

さわってはいけないとされる美術作品の中でも、彫刻は
さわってこそ「作者」と「作品」と「さわって鑑賞する人」の
3つのエネルギーが合わさって伝わるものがあるのだそうです。

『触常者』と「さわってみるフィーリングワーク」を
共有することで、『見常者』が自分の感覚を再発見したり、
視覚障害者に対する見方が変わる=新しい発見をする。
感覚の使い方が違う異文化と交流するところに面白さがある、
とのお話でした。

広瀬さんのライフワーク「ユニバーサルミュージアム」についての
企画展を数年後に計画されているとのことでした。

最後に、『障害者』のがいをひらがなにした『障がい者』という標記について。
表面的に「害」を「がい」に言い換えるのでなく、「障害者」という言葉・・・一方的にマイノリティに貼り付けたレッテル・・・自体を問い直し、「多彩な人間観が許容される成熟した社会」※1、ユニバーサル社会にむかうことでなくしていく・なくなっていくのが理想、とのお話でした。
※1広瀬さんの『万人のための点字力入門~さわる文字からさわる文化へ』から


講演会終了後、交流会を行いました。
テーブルをぐるりと囲んで話しています

多くの方に参加頂き、感想と、それぞれの方の経験からのお話、
講演会最後の話題である『障害者』標記についてのご意見や、
さわってみること=触察の有用性の話題など話しました。

人のあり様(よう)の、多様性の豊かさを教えてくれる広瀬さん。
これからのご活躍がますます楽しみです!!
ありがとうございました。

参加者のアンケート

①講演会はいかがでしたか?感想をお願いします。
②特に印象に残った事があれば教えてください。

千葉県市川市 50代女性
①大学の変遷がとてもよくわかり興味深かったです。1960年産まれの私にとって文化が元気だったのは80年代です。海外からいろいろなアーティストがきたり、展覧会が開かれたり・・・(バブルという面があったと思いますが)しかしその当時は絵や音楽=文化であって、障がいを文化として見るというような発想は皆無だったと思います。21世紀になって障がいという文化が育ってきたというお話は新鮮で、なるほどそうだったのかと思いました。ろう者が独自のろう文化を打ち立てたのに対し視覚障害の方が一般社会にどうかしようとしたのは、どんな違いによるものなのか調べてみようと思います。

②(1)視覚を使えない→使わない文化、の説明が興味深かったです。
(2)彫刻を触る 作者・作品・観覧者 三者のエネルギー
(3)さわって学び、楽しみ、驚く。触る文化はみんなに平等。for万人。
(4)「触常者」と「見常者」

つくば市40代女性
①大変興味深かったです。
②保育園ワークショップ、とても興味深いです。是非次回お聞きしたいです。

つくば市50代女性
①広瀬さんの今までの体験を通したお話、とても興味深く拝聴しました。
うんうん、とうなずくことも多くありました。「障害者」という文字についての考え方も、表面的な漢字のみにとらわれている社会常識について考えてしまいます。多くの人が自然に、ともに生きて生活していければと思っています。

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